『オペラ座の怪人』 原作小説 翻訳各種 どれがいい?

オペラ座の怪人 原作 翻訳

『オペラ座の怪人』の原作はまとまりのある話ではない。創元推理文庫(三輪秀彦訳)で読んだのはかなり前なのであまり覚えていない。

再読するなら別のにしようと思い、早川文庫(日影丈吉訳)を読んだ。訳者が作家なので期待したが、こんなの日本語じゃないと云いたくなるような悪訳に感じたところもあった。だが、読み続けていると他に比べ丁寧な訳で、結構いいのかもとも思った。一番嫌になったのは「お友だち」連呼だ。原文を調べてみたら予想通り「mon ami」だ。「私の」をつけると友達ではなく恋人という意味になるので、ただの友達はun ami/une amieという。

早川文庫は途中で投げ出そうと思ったが、なんとか読破して、角川を読み始めたらすごく面白いではないか。初めて面白いと感じた。ブランドとしては創元や早川の方が断然好きで、角川なんてチャラチャラしたイメージなのでノーマークだった。角川文庫は訳者の経歴は書かない方式らしく、長島良三を検索してみたら「ミステリマガジン」「SFマガジン」両誌の編集長をやっていたそうだ。

ただ、「”LE FANTôME DE L’OPÉRA” には想像力が必要」と書いた通り、ちょっと想像力は必要で、ファントムを最初から「幽霊」と訳してしるのは創元推理だけだ。小説の中の人物は幽霊だと思っているのだろうから、幽霊と訳して欲しいところだ。創元推理では「可愛いメグ」、早川も「かわいいメグ」のところが角川は「メグちゃん」というのがいい。原文は” la petite Meg”だ。

光文社古典新訳文庫の『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー 平岡敦・訳)は会話が自然で読みやすい。かと云って砕けすぎていない。支配人やジリイ夫人が今までとは違うイメージで、既訳以上に楽しめた。「怪人」と「幽霊」の訳し分けが不自然に感じられる部分もあったが、私も「怪人」という響きには魅力を感じるし、好みの問題だろう。オペラ座断面図、平面図が付いている。

エリックはクリスティーヌと話すときは自分を「わたし」相手を「おまえ」と云う。ペルシャ人と話すときは「おれ」、「あんた」と云う。エリックとペルシャ人の距離が近く感じられて、普通の人間のようで、よかった。

解説ではファントムをフランケンシュタインの怪物、ジキル博士とハイド氏、吸血鬼ドラキュラの延長線上にならべて、それらとの違いを述べているが、これは幽霊を信じるイギリス人と信じないフランス人の違いではないだろうか。記事「恐怖までもアムール フランスの恐怖演劇グラン=ギニョル」に「グラン=ギニョルにモンスターは出てこない。全部人間だ」と書いた通り、『オペラ座の怪人』はフランス怪奇の伝統上のものだと思う。

原作のラウルが弱々しいという感想があるが、いいんですよこれが。映画やミュージカルのラウルはただのツラのいい奴にすぎない。原作のラウルは、もしファントムが美男だったら自分は愛されないのではないかという苦悩があり、恐怖感がありながらも立ち向かう姿がとてもいい。

《関連記事》
これいいの?
欲望、特殊能力や変身、失敗 サイレント三国めぐり
アーサー・コピット版『ファントム』
“LE FANTôME DE L’OPÉRA “には想像力が必要
オペラ座組曲
怒りの『オペラ座の怪人 25周年記念公演inロンドン』 字幕手抜き
乱歩 ルルー ルヴェル グラン=ギニョル
『ファントム』 スーザン・ケイ オペラ座の怪人の誕生から死まで
『カルパチアの城』 ジュール・ヴェルヌ 死んだはずの歌姫の声の正体は?
パリ オペラ座で何気なく撮った写真
洋書 ”The Complete Phantom of the Opera”
『オペラ座の怪人』(1925)の彩色版
『悪魔スヴェンガリ』と原作『トリルビー』
ドラキュラやオペラ座の怪人はジュール・ヴェルヌと関係あるか?
『吸血鬼』 『オペラ座の怪人』原作者ガストン・ルルーのアンドロイド小説
『オペラ座の怪人』 ケン・ラッセル監督のプロモーション・ビデオ
KISS ポール・スタンレーの『オペラ座の怪人』
『オペラの怪人』(1943) ファントム 怒りの復讐
『オペラ座の怪人』(1962) ハマー・フィルムのスパルタ・ファントム
仮説 オペラ座の怪人はフランケンシュタインの怪物
『オペラ座の怪人』 二種類のフランス語バージョン
『夜半歌声』 中国版『オペラ座の怪人』(1937年/1995年)
『オペラの怪人』 映画と同じ1925年に出版された二冊

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。