ジャズ・エイジのブロードウェイ デイモン・ラニアンのスタイル

ブロードウェイの出来事 デイモン・ラニアン

先日、地元の古本市でユリイカ1981年12月号 特集・ガーシュイン を買った。それに載っている「ガーシュインとジャズ時代の文学」(加島祥造)にガーシュイン「ラプソディ・イン・ブルー」(1924)とフィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』(1925)がジャズ時代を濃縮して伝える代表作だと書いてあり、フィッツジェラルドと同様、中西部出身でニューヨークに暮らした作家デイモン・ラニアンを知った。ミュージカル『ガイズ&ドールズ』、映画『野郎どもと女たち』の原作者だ。

加島祥造訳の作品集が新書館から4冊出ていて、出版時期によって表紙が違うものもあるのだが、第二弾『ブロードウェイの出来事』初版の表紙がよかったので、まずはこれを買ってみた。ブックデザインは宇野亜喜良だった。

ブロードウェイが舞台の軽い短篇集だ。ほとんどは三十年代に書かれたものだが、ラニアンは二十年代には新聞記者をやっていて、描かれているのはジャズ・エイジのニューヨークだ。酒の密売人や酒場の主人、賭博師、キャバレーの踊り子、競馬狂などなどが巻き起こす騒動が、一人称の語り手によって語られる。

一言で云えばユーモアということなのだろうけど、語りや会話の可笑しさあり、義理人情のいい話風でもあり、哀しいことがあっても笑い飛ばそうという気分になれる。それでいて結構ブラックな笑いだ。

とても面白いのだが、読んでいて違和感を感じた。すべて現在形なのだ。臨場感を出すために現在形にしているという程度ではなく、明らかに過去の部分も現在形だ。不思議に思い、調べてみたところ、原文がそうなっているのだった。小森収は「日本語に移す際に、難渋するだろうなと、門外漢の私でも思います」と書いている。違う言語なので、英語ネイティヴが原文で読むのとは感覚が違うのだろう。最初、読みずらく感じたが、慣れてきたらこれでなくては嫌になってくる。

短編ミステリ読みかえ史 【第17回】(1/2)  小森収

ズレた人々について語り手が語るという点ではフィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』もそうで、酒の密売人とか三角関係とか共通する要素はあるが、ラニアンの短篇に出てくる人々はギャツビーのように真面目ではない。

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