フランク・キャプラが二度映画化 浮浪者が淑女に変身 『一日だけの淑女』と『ポケット一杯の幸福』

一日だけの淑女 フランク・キャプラ lady_for_a_day_1933

デイモン・ラニアン作品集『ブロードウェイの出来事』の帯の寺山修司のコメントに「往年のワイルダーやキャプラにも似た」とあるが、実際にフランク・キャプラ監督で映画化された短篇がある。1931年発表の「マダム・ラ・ギンプ」が1933年に『一日だけの淑女』のタイトルで映画化、キャプラはこの題材が気に入ったのか、1961年に再映画化したのが『ポケット一杯の幸福』だ。

原作「マダム・ラ・ギンプ」はそんなアホなというような展開にオチのある話で面白いが、映画は感動的な映画ということになっている。ブロードウェイに、足が悪いのでマダム・ラ・ギンプと呼ばれる、酔っ払いで浮浪者の老女がいる。彼女は娘ユーラリーをスペイン人として育て上げたいから、年頃になるまでスペインにおいて置く。ユーラリーはスペイン貴族と婚約し、貴族の家族と一緒にマダム・ラ・ギンプに会いに来ることになる。マダム・ラ・ギンプは手紙で自分は金持ちと再婚しているということにしているのに、娘が帰って来れば浮浪者であることがばれてしまう、どうしよう、困ったというところで酒の密売人「気取屋」デイヴ、踊り子ミス・ビリー・ペリーらがマダム・ラ・ギンプをホテル住まいの淑女に仕立て上げるという話だ。

『ポケット一杯の幸福』はネットでの評価が高いので期待したが、のんびりしてダラダラした映画だ。短篇の映画化で137分も必要なわけがないのだ。映画ではマダム・ラ・ギンプという名前ではなくアニーというりんご売りだが、この役のベティ・デイヴィスの演技が見所だ。酔っ払いのときはショボショボした目をしていて、淑女に変身するとしゃんとしたたたずまいになる。映画を見た後に原作を再読すると、もう一生酒は飲まないと書いてある。

『一日だけの淑女』フランク・キャプラのアカデミー監督賞など5部門受賞作『或る夜の出来事』の前年の映画で、無駄がない。娘と婚約者のシーンがソフトフォーカス以上に幻想的な美しい映像だ。『ポケット一杯の幸福』のデイヴ役グレン・フォードは人のいいおじさんという感じだが、『一日だけの淑女』ウォーレン・ウィリアムはまさに”Dave the Dude”の名にふさわしいかっこよさだ。

Warren William

どちらの映画でもいい味出してる、変身した母親の夫のふりをするヘンリー判事というのが原作の設定が傑作で、笑ってしまう。映画を見ただけではわかりずらい。

ヘンリー・G・ブレイクはちょっと見ると、半白の髪、鼻眼鏡、かっぷくのいい腹、誰だってどこかの偉い人間だと思うにちがいない。もちろんヘンリー・G・ブレイク判事は判事でも何でないし、いままで判事であったこともない。風采が判事みたいだし、話しぶりがおうようで誰にも分からない難しい言葉を使うんで、みんなが判事と呼んでいるだけのことさ。

この判事が原作ではマダム・ラ・ギンプと過去に因縁があって、これも傑作なのだが、何故か映画では描かれていない。これらの映画を好きな方には原作もおすすめだ。

どちらの映画も悪くはないが、少々物足りないのは、原作と比べてデイヴがあまり積極的ではないところだ。映画では行きがかり上パーティーを開くことになるが、原作ではデイヴがまわりの反対を押し切って歓迎の大パーティーを開くと云いだす。この強引さがあればもっと面白いのにと、私は思った。

下の動画のように短時間で済んでしまう話だ。こちらはデイモン・ラニアン原作というよりはパロディだが、ラニアンの小説の明るさ、レビューが盛んだった時代設定に合っていて、何度見ても歌や踊りが楽しい。この後にラニアン原作の『ガイズ&ドールズ』が同じ月組で上演される。



ラニアン風に全部現在形で書こうと思ったが無理だった。

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コメント

  1. 紅真吾 より:

    紅真吾です。
     また、おじゃましちゃいましたわ。
     さて、『ポケット一杯の幸福』はおっしゃる通り、チョッと間延びした感がありますが、当時はそんなモンだったのではないでしょーかねェ。 アタシはそう解釈しております。
     それよりも、後に『刑事コロンボ』を演じるピーター・フォークがコメディー・タッチのイイ味を出していたのが印象に残っていますわ。
     ところで、かのジャッキー・チェンがこの作品をリメイクしているのをご存知ですかな。
     邦題は『奇蹟/ミラクル』です。
     オリジナルタイトルは「ミスター・カントン&レディー・ローズ」とか。
     でも最後のタイトル・バックでは「カントン・ゴッドファーザー」となっていたような。
     香港のゴールデン・ハーベスト社が設立20周年記念として’89年に公開した作品です。 
     20世紀初頭の香港を舞台にして、『ポケット一杯の幸福』のストーリーをそのままなぞったストーリーですが、ジャッキー・チェンのアクション、ユーモアなどが織り交ぜられ、非常に楽しい作品に仕上がっています。 
     アタシのお気に入りの1本です。
     ジャッキー・チェンと云えば’83年の『プロジェクトA』が傑作ですが、アタシとしては、この『奇蹟/ミラクル』を推したいですね。
     だって泣けちゃうんだもん。
     リメイクをどーこー言う友人がおりますが、キャプラ監督もこの作品を観たら、「よくやってくれた」と言うのではないでしょーかねー。

  2. Blacken Darkin より:

    『奇蹟/ミラクル』はこの記事を書いたときはまだ見ていなかったのですが、中国に凝っていた時期に見ました。また見直してみます。

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