結局謎は解けない『魔都』(久生十蘭)

魔都 久生十蘭

過去の記事「『魔都』(久生十蘭)で殺される元宝塚生徒の謎」を書いたときはまだ読み終わっておらず、数日前に読み終わったが、で、結局どうなの? という感じで、自分の理解力が足りないのかと思ったが、関連本を読んでいると、どうやら何も解決してないようだ。真名古警視の自覚なき恋(アムール)とその暴発は読んでいて面白かった。

『久生十蘭 『魔都』『十字街』解読』海野弘 右文書院)によれば『魔都』に出てくるほとんどの事件、団体、人物にはモデル、風刺があるそうだ。細かいところが色々と面白い。全体としては二・二六事件をテーマにしていると海野弘は推測している。ナンセンス・ミステリーの下に政治陰謀小説が隠されている。

前掲書を読んでいて気になる部分があった。『魔都』の市街戦の部分の「読者諸君、試みに四年前の記憶をたどってごらんなさい。昭和十年一月二日の午前三時半ごろ」について。

昭和十年(一九三五)を四年前というのだから一九三九年からいっているはずだが、書いていた一九三八年からは三年前になるはずだ。もしかしたら、十蘭はわざとあやふやなことをいっているのかもしれない。

年数があやふやで「四」が出てくるのは「『魔都』(久生十蘭)で殺される元宝塚生徒の謎」と同じではないか。『魔都』は昭和九年(1934)の大晦日から昭和十年(1935)の元旦にかけての出来事を描いているが、昭和九年(1934)と云えば東京宝塚劇場ができた年だ。東京宝塚劇場は作中に出てこないが、よく出てくる帝国ホテルや日比谷公園のすぐ近くだ。

実在のベーブ・ルースを「ルーブ・ベース」、マーカス・ショーを「カーマス・ショオ」、フランスの通信社アジャンス・アヴァスが「ホヴァス通信社」、人名のもじりも多数あるのに宝塚少女歌劇学校や実在の芸名を出しているのはどういうことか。何らかの意図はありそうだ。

主要人物の一人、新聞記者の古市加十の死はジャーナリズムが処刑されたことへの風刺だと海野弘は書いている。それに習えば、元宝塚生徒の死はショウ・ビジネスの死だろうか。

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