『ドリアン・グレイ』(2009) ワイルドの原作に忠実な雰囲気と大胆な改変

ドリアン・グレイ dorian gray
『ドリアン・グレイ』オリヴァー・パーカー監督 2009)は日本では劇場公開されなかったので、もっと安っぽい映画かと思っていたが、かなりよかった。衣裳もセットも小道具も映像も格調高く、ヴィクトリアンのロンドンのサロンの華々しさ、夜の怪しさが出ていてよい。ドリアンの髪が長すぎではないかと思ったが、オスカー・ワイルドの髪型に似せているのかもしれない。

ドリアンを誘惑するヘンリー卿は冴えないおっさんで、演じるコリン・ファースの鋭い目つきはよかったが、物足りないなあと思って見ていたら、本当の皮肉屋な快楽主義者ではなく、本人は臆病でそうなれないから理想をドリアンに押しつけているという設定になっている。ドリアンが女優としてのシビル・ヴェインを崇拝して、シビルが現実の恋を知って演技ができなくなるとドリアンは幻滅するという原作の要素が描かれていない。物足りないなあと思いながら見ていたら、なんと真のヒロインは原作に出てこないヘンリー卿の娘エミリーだったのだ。突飛な改変のように思えるが、これが意外とよい。エミリーを不幸にしたくない、それでも恋に陥るというドリアンの苦悩、ドリアンが隠していることを知りたがる女の好奇心の要素が出てくる。

絵の変化にはゾッとした。惜しい点もある映画だが、雰囲気がよいので気に入った。

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ワイルド原作の映画化ということで随分前に見た『アーネスト式プロポーズ』を見直してみると、『ドリアン・グレイ』と同じ監督で、コリン・ファース主演だった。どちらもセットや衣裳の美しいヴィクトリアンな映画なのに日本版DVDのパッケージがアピールする層を間違っているのではないだろうか。
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