『艶容萬年若衆』 三上於菟吉 和製ドリアン・グレイの肖像

艶容萬年若衆 三上於菟吉

『艶容萬年若衆』三上於菟吉)は、『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド)を元禄の怪異談に翻案したものだ。いつの作品か、はっきりは分からないが、収録されている現代大衆文学全集第四十巻発行の昭和五(1930)年よりは前だ。

菱川派の流れを汲んだ浮世絵ぶりに大名を馳せる露月(ろげつ)は不忍池畔で若衆鳥谷呉羽之介(とりやくれはのすけ)と出会い、絵に描く。儒者の家系で学問武芸に励む呉羽之介に己の美しさを自覚させ、堕落させるのは大戸主水、雅號は片里(へんり)。呉羽之介が恋するのは、神田明神の境内で興行していた貧しい淋しい歌舞伎一座の女役者お春(しゅん)。

「若しこの事が出来るなら、此の身のかはりに此の絵すがたが老いてゆき、此の身がとはに若々しく、世に美しくながらへることが出来るなら、未来は地獄の血の池に逆しまに落ちようとまゝ! あはれ日本、天竺、唐、あらゆる神仏-たとえ邪教の神にまれ、または悪魔悪鬼にまれ、若しこの事を叶へてくれたら、永劫未来後の世はお主と僕となつて暮さう、火の山、針の林へもよろこんではいるであらう-」との願いが聞き届けられた呉羽之介には、大方禁制の切支丹伴天連の秘法により不老の魔術を行っているのだろうとの噂が立つ。

七十頁ほどの短篇になっているので『ドリアン・グレイの肖像』ほどの深さはないが、ほぼ原作通りで、季節や着物の描写など、古風な語りで味わい深い。

《追記》
記事を書いたときはいつの作品か不明だったが、APIED vol.12収録の「肖像鳥谷呉羽之介(えすがたとりやくれはのすけ)」(中村真知子)によれば昭和三(1928)年、雑誌「講談倶楽部」(博文舘)に発表されたらしい。渡辺温の抄訳「絵姿 The Portrate of Dorian Gray」が同じ年、同じ出版社の雑誌「新青年」に発表された。(2014年10月19日)

絵姿 The Portrate of Dorian Gray
渡辺温

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