『ラスト・タイクーン』(フィッツジェラルド 1940)の第三章に芸術についての言葉が唐突に引用されている。これは19世紀のフランスの詩人、テオフィル・ゴーティエの『螺鈿七宝集』の最後の詩「藝術」の中の一節だ。その部分と次の連を引用する。
一切移ろふ。━━ただ揺るぎなき
藝術のみぞ、万古伝ふる。
都城亡んで
なほ、胸像存らふあり。されば、農夫の地中に見出す
威風凛たる牌の浮彫は、
嘗て在せし
さる皇帝を、知らしむるなり。(齋藤磯雄訳)
フィッツジェラルドは金のために軽い短篇を書きながらも、本当は文学的価値のあるものを書きたかった。それは後世、地中から発見される、亡んだ都の皇帝の胸像のようなものだろうか。小説の中の引用であるが、この部分はフィッツジェラルド自身の姿をも思わせる。