「人面疽」 谷崎潤一郎 得体の知れない呪いのできもの、呪いの映画

「人面疽」(じんめんそ)は映画がテーマの怪奇ものだ。著者、谷崎潤一郎は映画を製作したり義妹を女優に育てたりしたが、大正七年(1918)にこれほどアメリカの映画会社や撮影について書いていることに驚いた。サイレント時代、アメリカ映画に出演した早川雪洲の例はあるが、女優もいたのだろうか。創作だろうか。

アメリカで活躍した女優、歌川百合枝は撮影した覚えのない映画が出回っているという噂を聞き、その映画の謎を追求する。 それは映画館で大勢で観れば問題ないが、深夜に一人で観ると気がおかしくなるというものだ。ちょっと映画好きなら、何本かの映画を編集して誰かが作ったのだろうと予測できるが、結局答えは出ず、唐突に終わる不気味な作品だ。

女優としての百合枝を説明する部分がいい。女賊とか毒婦とか、妖麗で俊敏な動作をする役が得意で、芸者や貴婦人や曲馬師に変身する少女間諜が当たり役だ。劇中劇とも云える映画が、花魁と、その花魁に懸想する醜い乞食の笛吹、花魁と恋仲のアメリカ人船員の三角関係がもつれて、乞食の呪いで花魁のひざに人間の顔をしたできもの「人面疽」ができるという話だ。悪徳や死が、直接的ではないが何となく『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド)を思わせる。

よくもまあこんな奇態なことを思いつくものだと思うが、人面疽は近世の本に出てきたり、明治時代に新聞記事になったりしたそうだ。

人面瘡 Ryoi_Jinmenso

人面瘡 – Wikipedia

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