「人面疽」について、過去の記事「「人面疽」 谷崎潤一郎 得体の知れない呪いのできもの、呪いの映画」に書いた。そのときは図書館で講談社文芸文庫の『金色の死』を借りて読んだ。久しぶりに読みたいなと思ったところ、ブックオフで108円で買って部屋に置いてあった谷崎潤一郎全集(中央公論社)に入っていた。全部揃って売られていたわけではなく、すごくたくさん買ったわけでもないが、興味惹かれるものを数冊買った。全集にも色々あるが、昭和三十年代に出版されたもので、「人面疽」が収録されているのは第六巻だ。
表紙は白い布に金の糸で刺繍してある贅沢なつくりで、新書サイズで小さいので持ち運びやすく、著者検印があり、旧漢字、旧仮名遣いと、いいことだらけだ。
「人面疽」は「新小説」大正七年(1918)三月号に掲載された。女優や映画にまつわる、この奇妙な小説が書かれた頃に何があったか調べてみると、1916年にユニヴァーサル日本支社が開業、1917年に活動写真興行取締規則が公布され、フィルムの検閲や男女席の分離などが定められたそうだ。
『プラーグの大学生』や『ゴーレム』は本文に出てくるので、谷崎潤一郎は観ていたのだろう。まだ『カリガリ博士』も『吸血鬼ノスフェラトゥ』も『ジキル博士とハイド氏』も『ノートルダムのせむし男』も『オペラ座の怪人』も作られていない時代に、よくこのような奇怪な小説を書いたものだ。
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