『魔都』(久生十蘭)で殺される元宝塚生徒の謎

紅千鶴 高千穂峯子

『魔都』久生十蘭)の殺人事件の犠牲者が元宝塚少女歌劇学校生徒だ。第四期生と書いてあるが、その部分に出てくる他の生徒を調べてみると不自然な点がある。

この美人は松谷鶴子といって、元は宝塚少女歌劇学校の第四期生で、踊の名手として紅千鶴や高千穂峯子などとともに非常な人気のあった女生徒だったが、舞台で足を痛めてから人気が落ち、まもなく退学してその後神戸の三宮辺りの酒場を転々としていたが、今から二年ほど前にふらりと日本へやって来た例の安南王、宗竜王に見染められ、ねんごろに山王台の有明荘に移植されることになった。

松谷鶴子 4期生入団 大正五年(1916)『魔都』作中(昭和九年(1934)の大晦日から昭和十年(1935)の元旦)で24、5歳
紅 千鶴(実在) 12期生 大正十二~昭和八年(1923ー33)在団
高千穂峯子(実在) 15期生 大正十五・昭和元~昭和十年(1926ー35)在団
『魔都』 昭和十二年~昭和十三年(1937ー1938)

フィクションだから曖昧にしてあるにしても、入団時期が離れすぎている。わざわざ名前を並べて人気があったというくらいであれば松谷鶴子は14期生であってもおかしくない。脱字なのか、そこまで深く考えていないのか、かなり幼くして入団した設定なのか、それとも「死」をイメージさせるために第四期生でなくてはならなかったのか、謎である。

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