『フォカス氏』 ジャン・ロラン 世紀末の頽廃と悪徳のごった煮

フォカス氏 ジャン・ロラン

『フォカス氏』ジャン・ロラン 月刊ペン社)は厚い本ではないが小さな字の二段組で、読み終えるのに時間がかかった。

澁澤龍彦によれば、ジャン・ロランは世紀末の頽廃と悪徳のごった煮のような作家で、ユイスマンスワイルドを凌駕するためにしきりに偽悪趣味の大言壮語をし、そのため批評家の鼻つまみとなり、わずか51歳で死ぬと、残された彼の文学は、もう誰も真面目に相手する者がなくなってしまったとのことだ。(『怪奇小説傑作集4』の解説 あるいは『機械仕掛のエロス』収録の「フランス怪奇小説の系譜」)

『さかしま』ユイスマンス)と『ドリアン・グレイの肖像』(オスカー・ワイルド)の影響を受けているのは分かるが、これらほどのカリスマ性はない。成功したとは云えなくても、凌駕しようとすることは無意味ではない。そしてジャン・ロランマルセル・プルーストと決闘したという人物で、これは読みたくなるというものだ。

語り手の貴族ド・フレヌーズ公爵は海緑色の目の幻影に取り憑かれていて、殺人の欲動がある。それを治療するつもりなのか悪化させるつもりなのか不明の悪徳イギリス人画家クローディアス・イーサル。人形、仮面、宝石、毒薬などデカダンな雰囲気、悪夢的イメージはあり、もっと面白くなりそうな気がするが、そうでもない。ド・フレヌーズ公爵とかつて関係があった踊り子から娼婦になった女の描写がよく、もっとストーリーに関係してくるのかと思ったがそうでもない。

作家や画家の名前が色々出てくるが、『さかしま』のように詳しい注や図版があるわけではないので、少しづつ見ていきたい。

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