フランスの男は洗練された大人っぽいイメージもあるが、意外と純情というかガキっぽいのだろうか。『シラノ・ド・ベルジュラック』(ジャン=ポール・ラプノー監督 ジェラール・ドパルデュー主演 1990)を見て、そう思った。シラノはフランス人にとっての理想らしい。反骨精神、自己犠牲の精神があり、恋に殉じ、あの世に持っていくのは心意気、そのかっこよさはフランス人でなくとも解る人には解るはずだ。
剣の腕と詩作の才を持ち合わせているシラノは従妹のロクサーヌを密かに愛しているが、大きな鼻がコンプレックスで臆病になっている。ロクサーヌは美男だが詩作の才はないクリスチャンに恋していて手紙を欲しがるが、ボキャブラリーの少ないクリスチャンは手紙を書くことができない。その手紙をシラノが代筆する。手紙を読んだロクサーヌはどんどん相手に惹かれていくが、それはクリスチャンの顔になのか、それともシラノの言葉になのか。
シラノとクリスチャンはライバルでありながら、相手がいるおかげで自分の思いを吐露できるという奇妙な関係だ。シラノは豪胆、豪快だが、時折哀しげな瞳を見せる。クリスチャンは情けない役回りに見えるが、最後は男気を見せる。ロクサーヌはシラノの言葉に恋しているのではないか苦悩し、戦争で勇敢に戦って死ぬが、そのときシラノはクリスチャンに「彼女が愛しているのは君だ」と云う。
ストーリーは似ていないが、美形とは云えないがっしりタイプの男と美男、美しいヒロインの組み合わせで『冒険者たち』(ロベール・アンリコ監督 1967)を思い出し、久しぶりに見た。こちらもやはりガキっぽい男たちの話だ。女よりは冒険に夢中な感じで、恋愛要素はないわけではないがさりげない描写で、しかも重要な要素になっている。
『冒険者たち』のラストシーンが『シラノ・ド・ベルジュラック』の美男の死の場面に似ていて、美男アラン・ドロンが死ぬときにもう一人のがっしりタイプ、リノ・ヴァンチュラが「彼女はお前と暮らすと云っていた」と伝える。ここまでは同じだがひとひねりあって、美男の台詞が泣かせるのだ。ネタバレになるので書かないが、きちんと伏線もあって、感動的だ。ああいうのは分かっちゃうものなんだよね。
ガキっぽいという単純すぎる言葉を使ったが、ほめ言葉だ。自由な精神を持ち、損得で行動しないということだ。そしてどこか哀愁が漂っている。そういう者に私はなりたい。
『シラノ・ド・ベルジュラック』は中古ビデオを持っていたくらい好きで何度か見たが、DVDが出れば字幕の地名に誤記があり、テレビ放送を録画すれば地震速報が入りで、なかなかまともな映像がなかった。ブルーレイは画質もよいし誤記も修正されている。セールで価格が下がっていたので買った。