『わが友フランケンシュタイン』(和田慎二 集英社)は別冊マーガレットに掲載された連作短篇集だ。どれもフランケンシュタインの怪物が発見され、人々と交流し、去ってゆくという内容となっている。怪物は時の流れにより、優しく、従順になっている。珍しいアイデアだ。
医学生ビィクトル・フランケンシュタインによって生まれた怪物がインゴルシュタットの町に大惨事を引き起こし、いずこともなく消えた。いつしか怪物はいまわしい名、フランシュタインと呼ばれるようになった。フランケンシュタインが博士でも男爵でもなく、原作通り医学生となっていて、フランケンシュタインと怪物を混同していない。インゴルシュタットはフランケンシュタインが学んだ大学がある町で、原作で怪物が惨事を引き起こしたのはフランケンシュタインの故郷ジュネーヴだが、それでもメアリ・シェリーの原作(1818,1831)に忠実にしようとしている姿勢はみられる。
怪物の外見と、うめき声のみで話せない設定はユニバーサル映画『フランケンシュタイン』(ジェームズ・ホエール監督 1931)と近い。映画の怪物は首に左右から電極が刺さっているが、『わが友フランケンシュタイン』の怪物は首が左から右へ杭状のもので貫かれている。
発表された時期はハマー・フィルムのフランケンシュタイン・シリーズの終わり頃だ。『わが友フランケンシュタイン』も後半になると人間の邪悪さ、残酷描写が出てくる。老年のフランケンシュタインが男爵であること、顔や髪型は似ていないが痩せ型で鋭い目をしているところはハマー・フィルムでフランケンシュタインを演じたピーター・カッシングの影響を受けている可能性がある。
この作品についての予備知識はなかった。店ではビニールがかかっていて中身を見られなかったが、直感で買った。少女漫画でフランケンシュタインとはどんなものだろうと思ったが、予想以上にきちんとしたフランケンシュタインもので、読みごたえがあってよかった。
「わが友フランケンシュタイン」昭和47年9月号(1972)
1802年、ドイツ・バイエルン地方の女領主ミア・ファンション・グルンワルドは雪山で発見された怪物を使用人にした。ミアは首のアザのせいで心がすさみ、冷酷な性格だったが、醜い怪物に自分と似ているところを感じ、怪物にサイラスと名づけ、交流するうちに優しい心の大切さに気づく。ある日、山火事が起こり・・・・・・
「谷間に鳴る鐘」昭和48年9月号(1973)
19世紀初頭、スイスの山岳地方の洞窟で氷づけのサイラスが発見される。村の大人たちは怪物だと危険視するが、鐘職人マフェルトの孫娘イルゼをはじめ子供たちは、なついて遊び友達になる。サイラスは子供たちがなつくほどのものを持っていると感じたマフェルトは、サイラスを引き取る。村は”悪魔の叫び声”と呼ばれる音のせいで寂れていた。その音の鳴る場所、高い岩山の頂上までサイラスが鐘を運んで取り付けることになったが・・・・・・
「怒りの十字架」昭和50年2月号(1975)
19世紀初頭、ドイツに近いスイスのある村、村人に虐待されている口のきけない少女ヒルダは湖の底でサイラスを発見し、引き上げる。それを見ていた邪悪な領主ヘル・クルスハルトはヒルダを使用人にし、サイラスを地下牢に閉じ込めた。ヒルダが行方不明の財宝の鍵を握っていることを知った領主は、サイラスの解放を条件にヒルダを財宝の捜索に協力させる。ヒルダが捜索で力尽きたとき、サイラスの怒りが・・・・・・
「炎の地平線」昭和50年10月号(1975)
1848年、ドイツ南西部、貴族ブレイク家乗っ取りを狙うラドレック家の陰謀、ブレイク家の脚の不自由な娘クリスチーネとその治療にあたるグスタフ医師の恋、怪物に婚約者と弟を殺されたフランケンシュタイン男爵の復讐、サイラス殺害を命じられた女性型人造人間イボンヌの戦いと心の変化、そしてついに怪物とその生みの親の対面の時が・・・・・・