光文社古典新訳文庫の『グレート・ギャッツビー』(フィッツジェラルド 小川高義・訳)の訳者あとがきによると、ジェイ・ギャツビーの”Jay”には鳥「カケス」の意味がある。デイジー、”Daisy”が花「ひなぎく」なのは分かりやすい。ではトムは”Tomcat”、「雄ネコ」か。西洋文化にはシンボルというものがあるので、こじつけというわけではない。読めば分かるが、神経質なまでにきっちりした小説なので、人名も適当につけたものではないはずだ。
”Jay” カケス
鳥は魂や精神の昇華を象徴するものとされてきた。翼は思考、想像力、知性、天使を表す。ワシや白鳥のように高潔、善を意味するものばかりではなく、フクロウやオオガラスのように狡猾や邪悪を意味する鳥もいた。
”Jay”には俗語で馬鹿、阿呆、間抜け、うぶな人、カモられやすい人、おしゃべり、口数の多い人という意味がある。
”Daisy” ひなぎく
花ははかなさの象徴だ。果実は花に依存し、ただ種を作る役目を果たして終わるが、種は潜在する希望と秘密を象徴する。野生の植物とは違って、果樹園や花園の花や果実は、選ばれ、囲われて保護される。民話や神話の世界では、花や果実は禁じられた宝物であり、ひそかな欲望の対象である。
”Daisy”には俗語で上等品、素晴らしい人(もの)、かわいい女の子という意味があり、また墓場、死という意味もある。
”Tomcat” 雄ネコ
ネコは古代ローマでは自由の象徴、キリスト教伝来初期のヨーロッパでは怠惰と肉欲を表し、やがて悪魔そのものを意味するようになった。
”Tomcat”には卑語で(男がセックスの対象となる)女をあさる、女の尻を追い回す、相手構わずに寝るという意味がある。
鳥は猫には勝てないな。
多分、英語ネイティブでなくては解らない単語や人名の意味、宗教に関する言葉がもっとあるのだろう。新たな発見が色々あった。私は最初に村上春樹訳を読んで、トムは何故、美しい妻がありながらわざわざ不倫するのか解らなかったが、野崎孝訳で読むと、ああそっちの方なのねと解った。村上訳はお上品なので解らなかったのだ。今回調べたことによって、それが裏付けられた気がする。村上訳で感銘を受けたし、美しい表現もあり、嫌いなわけではない。だが、他の訳や原文も読んでいった方がいいだろう。
《参考文献》
『西洋美術解読事典』(ジェイムズ・ホール 河出書房新社)
『シンボル・イメージ小事典』(ジェイナ・ガライ 現代教養文庫)
E-DIC 英和|和英 (イーディック)朝日出版社