『肉体と幻想』幻聴幻覚、占い、夢に翻弄される人々

肉体と幻想 flesh and fantasy poster

何故か知らないが、記事「「アーサー・サヴィル卿の犯罪」 オスカー・ワイルド 手相占いを本気で信じてしまって殺人者に」に複数のアクセスがある日が時々ある。この短篇は映画化されている。オムニバス映画『肉体と幻想』ジュリアン・デュヴィヴィエ監督 1943)の三本のうちの二本目だ。この三本はどれも不思議な雰囲気でよい。映画は霧の立ち込める夜の森を移動する映像とサスペンス風の音楽から始まる。

映画化された「アーサー・サヴィル卿の犯罪」は丸っこいおじさん(エドワード・G・ロビンソン)が主人公で、オスカー・ワイルドの耽美な雰囲気ではなくなっていて、ほぼ原作通りだが結末が中途半端になっている。影の演出やガラスに映ったもう一人の自分が話し出す特撮など、面白いところはある。

一本目は醜女が美女の仮面をかぶり、美男から愛されて美女に変身する、「美女と野獣」「シンデレラ」『オペラ座の怪人』を合わせたような話だ。フランス的なのだろうか、ストーリーも映像も美しく、気に入った。

醜女役(ベティ・フィールド)は本当に顔が醜いというわけではなく、表情、メイク、照明、嫌な性格の演技で醜い女を表現している。女は憧れの美男にも相手にされず、ネガティヴな幻聴が聴こえ、死を望む。水に飛び込んで自殺しようとしたそのとき、白鬚の老人に止められる。

謝肉祭で町は仮装した人々が騒ぎ、花火が打ち上げられている。憎しみと孤独の中で生まれ、自分の顔は呪われた顔だと話す女に、老人は呪われた顔を克服するのは愛だ、愛は代償を求めてはいけないと語り、美女の仮面を与え、真夜中までに返すように云う。

その後、女はカフェで憧れていた男と語り合う。男は夢を諦めかけていた。二人で踊る楽しいひととき、また女に幻聴が、自分のことは考えずに男に自信を持たせてやるようにとの声が聴こえる。謎の老人の正体は・・・・・・?

映画紹介サイトには「恋のために面とそっくりの美しい顔になっていた」と書かれてるが、そんな薄っぺらいものではなく、内面の変化があって、男から愛されて美しい顔になった。私は最初に見たとき、変身前と変身後は別の女優が演じているのかと思った。

三本目はサーカスの綱渡りの男(シャルル・ボワイエ)が落下する夢を見、夢の中に現れた女性(バーバラ・スタンウィック)と出会う話。男は落下する夢を見ても気にしていないつもりだったが、危険な技をできなくなってしまい、ロンドンからニューヨークへの船上で今後どうするか考えるよう、マネージャーに云われる。その船上で夢に現れた女性と出会う。男は女を誘うが、なかなかなびかない。既視感や旅について話すうちに恋に陥るが、女にはある事情があった。これもいいね。詩的でロマンティックで現実的ではない、今の映画にはない感じの会話で。

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