「死体蘇生者 ハーバート・ウェスト」 H・P・ラヴクラフト

Knight-Herbert WestDamon Knight(1942)

スチュアート・ゴードン監督『死霊のしたたり』(1985)の原作はH・P・ラヴクラフトの短篇小説で、フランケンシュタインもののアンソロジーに収録されている。『フランケンシュタインのライヴァルたち』(ハヤカワ文庫)では「ハーバート・ウエスト—死体蘇生者」(仁賀克雄訳)、『フランケンシュタインの子供』(角川ホラー文庫)では「死体蘇生者 ハーバート・ウェスト」(片岡しのぶ訳)だ。ラヴクラフトの手紙によると、『フランケンシュタイン』のパロディとして書いたらしい。

ハーバート・ウェストは唯物主義者で魂など信じず、生と死の現象の秘密の研究に熱中する。はじめは寿命を伸ばすという正常な科学的興味だったのだが、やがて病的な屍食鬼的興味へと堕落してゆく。「もはやわが友ハーバート・ウェストは青白い知的風貌の仮面をかぶった生体実験に狂うボードレールであり、無感動なヘリオガバルスであった」(片岡しのぶ訳)と描写されている。

『死霊のしたたり』は原作では17年間の話を短期間にまとめ、原作にない「狙われた美女」や変態教授が出てくるサーヴィス精神でよくできた面白い映画だが、蘇生技術の研究や死体選びについてはあまり描かれていない。それについては原作に書いてある。それでも読んでみると、映画は原作の要素を受け継いでいることが分かる。ウェストは小柄で痩せていて眼鏡をかけているというのはイメージ通りだし、首なしの死体がリーダーとなって動く死体の軍団が襲ってくるのも原作通りだ。

原作は1922年に発表された。大戦の記憶が生々しい時期だ。作中に大戦の怖ろしさやエピソードも描かれている。『フランケンシュタイン』にはフランス革命、ナポレオン戦争の影響がある。動く死体の奇妙な話が出てくる背景には、小説よりも怖ろしい現実があるようだ。

原文 Herbert West—Reanimator By H. P. Lovecraft

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