マリオ・プラーツは『肉体と死と悪魔―ロマンティック・アゴニー』(国書刊行会)で、ゲーテ、シェリーからボードレール、キーツ、タッソ、バルベー・ドールヴィイなどの例を挙げながら書いている。恐ろしくも魅力あふれるメドゥーサ(メデューサ、メドーサ)が、19世紀全体を通じてロマン派、デカダン派の陰鬱な愛の対象となってゆき、ロマンティスムから今日に至るまであらゆる文学において、苦しめられ汚されるものの美という主題が追及されている、と。
名も知れぬフランドルの画家の作とされる、この絵をシェリーは美術館で見て、詩を書いた。『肉体と死と悪魔―ロマンティック・アゴニー』にはそっくり引用されているが、長いので一行だけ引用する。
これぞ恐怖のうちに宿る嵐のような美しさ。
Anonymous Flemish painter(1600)
私が子供の頃、比喩ではなく本当に寒気を感じた『世界妖怪図鑑』(佐藤有文 立風書房)にもメドゥーサは載っていた。古い子供向けの本なので、画家が描いた絵だというキャプションもなく、昔、本当にいたのだと信じた。
Michelangelo Caravaggio (1592-1600)
中でも一番恐ろしかったのはこれだ。
今の妖怪図鑑などお話にならない。絵のうまい人は今でも多分いるのだろうけど、気迫、情念が違う。絵具や印刷も違うのだろう。
ゴーゴンは種族名で、三姉妹の名はステンノ、エウリュアレ、メドゥーサだ。意味はギリシア語でそれぞれ「力強い」、「遠方への放浪」、「支配者」という意味。