「水族館」 田園小説『風立ちぬ』の前は都会的だった堀辰雄

モダン東京案内

浅草公園の魅力を伝えるために、千個の事実よりも空想の中に生まれた異常な物語の方が便利というのが堀辰雄の短篇「水族館」だ。昭和五年(1930)刊の『モダンTOKIO円舞曲』に収録された。近年の本では『モダン都市文学Ⅰ モダン東京案内』海野弘・編 平凡社)に収録されていて、青空文庫にもある。

水族館 堀辰雄

空想の物語ではあるが、劇場、酒場、宿屋などは実在のものを借りた、と語り手は語る。浅草公園の水族館の二階に演芸場があり、そこで軽演劇団カジノ・フォーリーが興行していた。劇場や観客、踊子たち、群衆の描写がリアルだ。少女たちのレビューに群がる男の観客たちにまじり、美少年が現れる。その美少年は、実は男装の少女だという噂もある。その美少年がカジノの踊り子の誰か一人に夢中になっているらしい。

語り手とその友人が讃美している踊り子の小松葉子を、友人は本気で恋してしまい、深刻に悩む。語り手は、その踊り子を讃美してこそいるが彼女を欲しがっているわけではないとなだめても、友人は信じようとしない。友人は踊り子たちが稽古を終えて出てくるのを待ち伏せる。その踊り子は美少年とともに消えた。二人の関係は? 美少年の正体は?

「水族館」の9年前の作品で、同じく浅草が舞台の「幻影の都市」室生犀星)はホフマン「砂男」を連想させると過去の記事「「幻影の都市」 室生犀星 大正の浅草の不思議な女の正体は」に書いた。「水族館」にもホフマンの要素がある。恋と狂気と死の雰囲気が漂っている。

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カジノ・フォーリーの写真は踊り子の写真がたまにあるくらいで、劇場内や客席はどうなっていたのかよく分からない。写真はないが川上澄生の版画があった。「水族館」でも、前列は埃っぽいから三階で真上から観たという記述があり、それが描かれている。
1930年代の浅草に胸躍らせて週末。浅草オペラ展と上野松坂屋。

カジノ・フォーリーの座長榎本健一のインタヴューについて
カジノ・フォーリーの娘たち!

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