「水族館の踊子」 川端康成 楽しそうに踊る踊子の生活全体が楽しいとは限らない

浅草水族館▲浅草水族館(『風俗画報第204号』より 引用元:ほぼ日刊イトイ新聞 -江戸が知りたい。

川端康成が雑誌「新青年」に書いたことがあることを知り、どの作品なのか『新青年傑作選 第五巻 読物・復刻・資料編』(立風書房)で調べてみたところ、『浅草紅団』に収録されている「水族館の踊子」(1930)だった。直接的なエロではないが、そういう商売についての悲惨な話だ。

浅草の水族館と云えばカジノ・フォーリーの話かと思いきや、その前のもっと怪しげな舞踏団だ。前半は踊子の千鶴子が楽しそうに踊ること、どんな動物からも舞踏を見つけ出すことがおとぎ話のように語られる。その兄が客引きで、普通の客引きはそれぞれの持場を隠し合っているところを、客に化けて十五六の素人娘のところばかりに行き、秘密の家を知ってしまう。したがって、他の客引きよりもいい商品を客に勧めることができる。

ここで「吸血鬼」という言葉が使われる。血を吸うモンスターではなく、女から金を吸い取っていることの比喩だ。 千鶴子の兄は山の手のお嬢さん風の娘のところに行き、その後、厭な男、一癖ある男ばかりを選んで送り込む。その復讐が千鶴子へ向かう。貞操の危機を避けるため、金を作るために特別会員向けに変な踊りを始めるが・・・

『浅草紅団』はまったくのフィクションで、サトウハチロー添田啞蟬坊石角春之助などの浅草本や不良少年研究家の本から浅草の雰囲気を与えられたと川端康成は語っている。同じ年の「水族館の踊子」も事実そのままというわけではないのだろう。だが、いかがわしい雰囲気は感じられる。天井が水槽になっているというのが本当にそうだったのかどうか分からないが、その部分の踊子の描写は美しい。

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