『憂い顔の『星の王子さま』』 (加藤晴久 書肆心水)を読むと、たくさんある『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)の翻訳はどいつもこいつも駄目だと思えてくる。後発で、その分誤訳が少ないという『ちいさな王子』(野崎歓訳)を読んだ。
内藤濯訳で読んだときはよくわからなかったが、わかりやすすぎるくらいシンプルな話だった。第二次大戦中につらい目に遭っている友人に向けて書いた話だ。反戦のメッセージが強く出ているわけではないのに、虚栄心、支配欲、拝金の愚かさがあっさり描かれているところがいい。「これ解る!」というところも時々ある。「なんでもない言葉を真にうけたりして、とてもふしあわせになってしまったんだ」というのはよく解る。
解説に「孤独、寂しさ」、「不思議なものに対する感覚」という言葉が出てくる。勿論これは『ちいさな王子』の解説なのだが、私が心惹かれる他のフランス文学にも共通している。最近凝っている『オペラ座の怪人』もそうだ。フランス文学の広い範囲について詳しいわけではないが、そういう側面はあって、そこが好きだ。
読み比べしている暇はないがほとんどの訳は問題あるそうなので、原文で読んだ方がいい。私は『自分で訳す星の王子さま』(加藤晴久)を買ったが、この本にもミスがあり、著者本人が『憂い顔の『星の王子さま』』 で訂正している。