和製ピクチャレスク 『浅草紅団』 川端康成

浅草紅団 川端康成

「「尖端的だわね。」――『浅草紅団』の〈目〉」高山宏 文学7,8月号 特集・浅草と文学)によると、『浅草紅団』(川端康成)はピクチャレス文学だそうだ。イギリスやフランスを引っ張りだした仲々解りづらい文章だが、十二階からの展望、映画やレビュー、見世物があった浅草では「視覚」が重要なことは分かる。

ピクチャレスクはロマン主義やゴシックに関連している。18世紀に現れた、視覚に訴え感嘆を呼び覚ます風景、景観を描写する、暗示や憧憬が多くを占めるジャンルだ。ロマンティックも同じ時期に生まれた言葉だが、単に光景ではなく人間の内面の特殊な感動も表現する。(参考文献 『肉体と死と悪魔』 マリオ・プラーツ)

「憧憬」は、浅草に魅力を感じながらも溶け込むことはない観察者だった川端康成にぴったりな言葉だ。

『浅草紅団』の冒頭や地下鉄食堂の尖塔からの詳細な風景描写について、高山宏氏は「観相術(physiognomy)」という言葉を使っている。思い出すのは短篇「虹」のレビュー団の綾子の父が人相見であることだ。見る商売の父に見られる商売の娘。高山宏氏はもっと広い視野で論じているようだが、他の浅草小説を読む時もピクチャレスクは心に留めておこう。

文学(岩波書店)  第14巻・第4号 013年7,8月号 《特集》浅草と文学

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