『輪舞』(マックス・オフュルス監督 1950)は好きで何度か見ているが、どうも感想が書きづらくて記事にしていなかった。人物やあらすじを書いても意味がない気がする。記事「夜想8 亡命者たちのハリウッド」に書いた、作り物めいた、夢を見ているような映画でとても気に入っているという印象そのままだ。アルトゥール・シュニッツラーの原作が舞台劇で、マックス・オフュルスも舞台の演出をしていたことも関係あるだろうか。現在から過去に入ってゆく導入部、階段を降りるとそこには回転木馬が。
夜想8「亡命者たちのハリウッド」収録の「オフュルスの二都物語――マックス・オフュルスのアメリカ時代」で梅本洋一はオフュルスの映画の重要な主題として階段を挙げているが、意識して見ると『輪舞』にも階段がよく出てくる。川岸に下りてゆく階段、集合住宅の上の階へ向かう階段、部屋の中にある階段、違う相手との性愛は日常から非日常への変化であり、階段はその象徴なのだろう。
ジェラール・フィリップ、ダニエル・ダリュー、ジャン=ルイ・バローら豪華キャストの中でも私が特に好きなのがアントン・ウォルブルックだ。歌いながら回転木馬を回す狂言回しで各場面に様々な変装をして出てくる。力の抜けた紳士ぶりがよい。同じくマックス・オフュルス監督の『たそがれの女心』に出演しているシャルル・ボワイエもアントン・ウォルブルックも『ガス燈』で同じ役を演じている。アントン・ウォルブルックの出演作、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督の『埋もれた青春』を見てみたいがDVDが高値になってる。
この動画、画質いいな。綺麗な映像のブルーレイ出て欲しい。
繰り返し流れるワルツ、時々流れるドラマティックなBGMの音楽はウィーンのオペレッタ作曲家オスカー・シュトラウス。有名なヨハン・シュトラウス一家とは苗字が同じだが血のつながりはないという。
1900年のウィーン、ワルツ、恋人たちと『忘れじの面影』(1948)と似たイメージながらも『忘れじの面影』のような暗さ、重さはない、粋で優雅な映画だ。