『妖花イレーネ』橘外男 美しい女性人造人間と凶悪な男性人造人間

青白き裸女群像・他 橘外男

記事「ガラスの中の美女」に載せた画像から人造人間創造を連想し、そんな話があったなと思い出し、『青白き裸女群像・他 橘外男傑作選』(桃源社)収録の『妖花イレーネ』を読んだ。

解説は澁澤龍彦だ。橘外男の小説の品格は決して高くなく、小栗虫太郎久生十蘭に匹敵するようなスタイルがあるわけでもないが、グロテスクへの欲求、神秘と怪奇への沈潜の趣味があり、非現実的な状況設定から一篇のロマネスクを組み立てようとする人工的な物語作者の意志、小説を小説たらしめる根本的な条件である遊びの要素があると書いている。私もリアリズムよりはこういう感じが好きなので、読んでいて楽しい。

話はブエノスアイレス警視庁の捜査局第二課長が公園で老紳士と会うところから始まる。老紳士は二十四年前に亡くなった妻が、当時のままの姿で現れたと話す。課長は最初は莫迦莫迦しいと思っていたが、謎の美女の噂や老紳士の身上調査から、過去にウィーンで起こった凄惨な事件にたどり着く。患者を凌辱した容疑で取り調べを受けたアウレリンゲン博士は、実は凌辱ではなく、人造人間創造のため、卵細胞(アイエス)を取っていたのだ。独身のはずの博士の研究所から赤ん坊の泣き声が聞こえ、異臭がするとの密告から警察が踏み込む。そこには胎児が入った硝子の太瓶(コルベン)があった。警察に追われたアウレリンゲン博士はアルゼンチンへ逃亡するが・・・。

澁澤龍彦も指摘しているように映画『妖花アラウネ』とタイトルが似ている。私は映画を見ていないし、原作の『アルラウネ』ハンス・ハインツ・エーヴェルス 国書刊行会)も読んでいないが、『妖花イレーネ』にも死刑になった凶悪犯の精細胞(スペルマ)が出てくるあたり、何らかの影響は受けているのだろう。

悪くはないが博士や美女の影が薄すぎる。結局、博士の目的は何だったのか、謎のままだ。グロ描写やアクション多めで、色っぽさはあまりない。『青白き裸女群像』の方が強烈だった。珍品ではあり、読んでよかった。

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青白き裸女群像・他

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