『海底二万里』(ジュール・ヴェルヌ)のネモ船長は科学、文学、美術、音楽と様々な分野に造詣が深く、金持ちで引きこもり生活ができているという一見うらやましい御身分だが、暗い陰を秘めている。オペラ座の怪人にも通づるダークヒーローだ。
友情とはまた違う、男同士の微妙な関係に、あっけない幕切れ。フランスの小説なので当たり前かもしれないが、フランス映画を観ているような結末にグッと来た。
新潮文庫の新訳『海底二万里』が出ていることは、角川文庫の『海底二万海里』を読んでいる途中に知った。詳細な注があり、こちらも読んでみたい。まずは全体を通して読んだが、地図や魚を検索しながら読むと、より楽しめそうだ。
が、あの表紙の魚のようなノーチラス号は何ですか。葉巻型と書いてあるでしょう。オリジナルだとしたら分かってない、そうでなければディズニーのパクりということになる。そして帯には「スチームパンクの祖」の文字が。すべて電気仕掛けと書いてあるでしょう。蒸気(スチーム)ではない。スチームパンクのモデルのひとつではあるが、「スチームパンクの祖」は『悪魔の機械』 (K・W・ジーター ハヤカワ文庫)ですよ。売りたいからとミーハーなことをやって。新潮文庫はそんなことしないで普通でいいのに。