「人間椅子」(江戸川乱歩)の醜い容貌、暗闇の世界の恋という要素が『オペラ座の怪人』を連想させる。ストーリーが似ているわけではないし、直接の影響が見られるわけではないが、江戸川乱歩は海外探偵小説十傑にガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』を第一位に挙げているくらいなので、『オペラ座の怪人』を知らなかったということはないような気がする。だが、たまたま似ただけかもしれない。
別に私が『オペラ座の怪人』に凝っているから妄想で書いているわけではない。『オペラ座の怪人』は抄訳だったそうだが戦前に田中早苗訳で出版された。同じく田中早苗は『夜鳥』 (モーリス・ルヴェル 創元推理文庫)を訳していて、乱歩は田中早苗とモーリス・ルヴェルについて新青年に書いている。
ガストン・ルルーとモーリス・ルヴェルが一緒に載っている本をたまたま見つけた。『グラン=ギニョル傑作選 ベル・エポックの恐怖演劇』(真野倫平 編・訳 水声社)だ。この本については記事「恐怖までもアムール フランスの恐怖演劇グラン=ギニョル」参照。『オペラ座の怪人』も『吸血鬼』(血まみれの人形)もグラン=ギニョルだったのか。長篇なので気づかなかったが、確かにそうだ。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の ヴァンパイア劇場もグラン=ギニョルっぽい。