私は記事「『カルパチアの城』 ジュール・ヴェルヌ 死んだはずの歌姫の声の正体は?」に、以下のように書いた。
吸血鬼伝説の残るトランシルヴァニアのカルパチア山中の古城が舞台の『カルパチアの城』(ジュール・ヴェルヌ)の三年後に『吸血鬼ドラキュラ』(ブラム・ストーカー)が出版された。だが、これは偶然で、ストーカーがヴェルヌを読んでいたとか面識があったということはないらしい。
また、『カルパチアの城』と『オペラ座の怪人』(ガストン・ルルー)はストーリーは似ていないが、怪人物、歌姫、青年貴族という人物の相関関係がよく似ている。これも偶然だろうか。
『レンヌ=ル=シャトーの謎と秘密結社 ジュール・ヴェルヌの暗号』(ミシェル・ラミ 工作舎)は、ヴェルヌが作品中に仕掛けた言葉遊び、隠語術、物語構造に古都レンヌ=ル=シャトーの財宝の秘密を解く鍵が隠されているという本だ。私のフランス語と秘密結社についての知識不足と、読んでいない文学作品や参考文献(邦訳のないものも多い)があるため、全容を理解しているわけではない。だが、上の謎の手がかりになりそうな部分はある。以下はメモ程度で、説明不足の点はある。
《ヴェルヌとストーカー》
- 『カルパチアの城』(ジュール・ヴェルヌ)も『吸血鬼ドラキュラ』(ブラム・ストーカー)も不死の物語。『カルパチアの城』のラ・スティラは不死の女(舞台上で死んだが、音と映像を見た者は生きていたと思う)。
- ストーカーは黄金の夜明け団に所属。ヴェルヌは所属はしていなかったが、作品に教義が含まれる。
- 黄金の夜明け団は、ドラゴンの象徴につながる血の崇拝との結びつきを持つ。
- 『カルパチアの城』出てくる旅籠「マティアス王」はヴェルヌの『マティアス・サンドルフ』(邦訳名『アドリア海の復讐』)と密接なつながりがある。
- 『マティアス・サンドルフ』にバートリ家の人間が出てくる。永遠の若さを保つために処女の生血を浴びたエルゼベト(エリザベト)・バートリ伯爵夫人は、単なる倒錯ではなく古来の魔術の技法に則っていた。
《ヴェルヌとルルー》
- ヴェルヌの『征服者ロビュール』は”Robur le Conquérant”。ルルーの『神秘の王』(邦訳なし)の主人公はRobert PascalなのにわざわざR・Cとサインする。R・Cは薔薇十字団のサイン。
- ルルーが少年時代に住んでいた町にヴェルヌも数週間滞在したことがあり、共通の交友関係があった。仮説にすぎないが出会っていたということもあり得ないことではない。
- ルルーの『夜の男』(邦訳なし)はヴェルヌの『八十日間世界一周』の中の一エピソードから想を得ていて、『カルパチアの城』や「ザカリウス親方」を下敷きにしている箇所もある。
今回は触れないが、『レンヌ=ル=シャトーの謎と秘密結社 ジュール・ヴェルヌの暗号』にはアルセーヌ・リュパンやサンジェルマン伯爵も出てきて、大変興味深い。『カルパチアの城』と『吸血鬼ドラキュラ』、『オペラ座の怪人』の類似は、はっきりしたことは云えないが、おそらく偶然ではないだろう。