川端康成の『浅草紅団』(昭和5年 1930)などに出てくる実在したレビュー団、カジノ・フォリーは、パリのレビュー劇場、カジノ・ド・パリとフォリー・ベルジェールから採ったものだ。アメリカにはジーグフェルド・フォリーズがあった。フランス語も英語も”folie”は狂気、英語の”folly”は愚かさという意味があり、レビュー団の「馬鹿騒ぎ」とつながる。
『奇想の20世紀』(荒俣宏 NHK出版)によれば、パリ郊外にあるランブイエ邸の敷地の中の一軒のあばら屋が、中に貝殻が敷き詰められていて、そのような家を本来”folie”と読んでいたそうだ。ルネサンス以降、ヨーロッパではこのような大別荘と庭園で馬鹿騒ぎをしていた。
(引用元:Pavillon des coquillages (intérieur), Rambouillet – Topic-Topos)
貝殻の館は時代をさかのぼると、イタリアのグロッタ(洞窟)と呼ばれていた。グロッタは映画『ルートヴィヒ』(ルキノ・ヴィスコンティ監督 1972)にも出てくる。洞窟の中に湖があり、舟を浮かべていた。だが、水を使えない建物もあったため、それらは水のイメージから貝殻だらけの家になった。このような建物はフランスでは「ニンフの館」と呼ぶ。ニンフは一般に歌と踊りを好む若くて美しい女性の姿をしていて、一方、粗野で好色という伝承もある。
郊外でしていた馬鹿騒ぎが19世紀末になると、パリの街中でもミュージック・ホールで行われるようになった。それは貝殻の館の系譜を引いている。
カジノ・フォリーは二つのレビュー団の名前を切ってくっつけたとは、本当に意味を分かっていたのかどうか疑問だが、丁度ぴったりな名前になっている。ただの”Je t’aime”ではなく、「熱烈に」という意味を付けると”Je t’aime à la folie”となる。カジノ・フォリーの踊り子が出てくる堀辰雄の「水族館」(昭和5年 1930)は”Je t’aime à la folie”な小説だと云える。