『魔都』魔木子 オールド上海を駆け抜ける謎の女殺し屋胡蝶

『魔都』 魔木子

記事「久世光彦「去年の魔都 いまいずこ」 久生十蘭『魔都』解説」に久しぶりに魔都上海の話題が出てきたので少し調べていて、『魔都』魔木子 ぶんか社)という漫画を知った。私はレディースコミックを読む機会が今までなくて知らなかったが、魔木子はレディコミの女王なのだそうだ。読んでみたところ、かなり硬派なオールド上海もので、街の様子、歴史描写、登場人物が薄っぺらくなく、最後は感動した。

1935年、上海一の殺し屋、上海一の娼婦とも呼ばれる、黒社会では有名な胡蝶という謎の美女がいた。ボディガード的存在の青年、白龍と行動を共にしている。ある日、胡蝶は中国人との駆け落ちで上海にやってきた日本の財閥令嬢、片桐露子と関わる。実は曲者の駆け落ち相手から露子を救い、日本へ帰るよう勧めるが、露子はまた胡蝶に会いたい、上海のことをもっと知りたいと上海に残り、深い闇に呑み込まれていく、と書くとすごく暗い話のようだが、時々ユーモアもあって楽しめる。

胡蝶が語る過去、上海の顔役の父と日本人の母との生活、白龍との出会い、香蘭という本名を捨て、日本では死の使いとも呼ばれる蝶にちなんで胡蝶を名乗るきっかけになった事件、胡蝶の母親の元婚約者で関東軍参謀本部の中佐が関わる秘密結社黒地会、ロシア人と中国人の混血の歌姫で実は黒地会の女首領等などが出てくる中盤から後半はドラマチックになっていく。

上海ものの漫画はまだ他にもあるかもしれないが、『蒼天の拳』原哲夫 監修・武論尊 新潮社)、『上海特急』猫山宮緒 白泉社)、『蘇州夜曲』『南京路に花吹雪』『Shang‐hai l945』の三部作(森川久美 白泉社)、『虹のナターシャ』大和和紀 原作・林真理子 講談社)と私が知る限りは一通り読んだ。『円舞曲は白いドレスで』『白木蘭円舞曲』さいとうちほ 小学館)はかなり感動した好きな作品だが、ずっと上海が舞台というわけではないので上海ものとは云えないだろう。オールド上海、魔都上海らしさが出ている漫画と云えば、やはり魔木子『魔都』になる。

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