『笑う吸血鬼』丸尾末広 ブルセラ・少年凶悪犯罪・オヤジ狩りの20世紀末グラン・ギニョール

笑う吸血鬼 丸尾末広

丸尾末広は雑誌でイラストを見たり短篇を読んだりしたくらいで、きちんと読んだことがなかった。古本屋や古本市ではビニールがかかっていることが多く、今日たまたまビニールのかかっていない『笑う吸血鬼』を古本市で見かけ、パラパラ見て関東大震災の絵に興味惹かれて買って読んでみた。私は怪奇ものが好きな割にグロすぎるのはあまり好きではない。他の方のレビューを読むと、『笑う吸血鬼』は比較的エログロが少なめで初心者におすすめらしく、私にも美、デカダンス、ロマンティシズムを感じることができた。やはり怪奇ものを創作するなら、このくらいブッ飛んでなくてはならないのだろう。上の写真は登場人物と同じ名を持つ日夏耿之介橘外男の本と並べてみた。

アルノルト・ベックリン 「ペスト」(1898)

作中、外男が図書館でヒロイン留奈と出会う印象的な場面で見ている絵はスイスの象徴主義の画家アルノルト・ベックリンの「ペスト」だ。戦争、疫病、死の悪夢に執着した強迫観念を示しているという。

アルノルト・ベックリン バーゼル版「死の島」(1880)

そしてその夜、「死の島」の夢を見る。ベックリンの「死の島」そのものではないが、画集を見て、そのイメージが混ざったのだろう。画家の孤独、ペシミズムを表しているそうで、『笑う吸血鬼』の不気味さにも合っている。

『笑う吸血鬼』が雑誌に掲載、出版された20世紀末はほんの少し前のように感じるが、やはりブルセラ・少年凶悪犯罪・オヤジ狩りといった、その当時独特のムードがある。そして吸血行為は牙を体内に挿入することから性的なメタファーとされることがあり、留奈がトラウマにより性的なものを「吸血鬼」と表現するのも古くからの伝統だ。描かれている風俗は少し前でも、古典的な吸血鬼もののようで、今読んでも古く感じず、終盤にはカタルシスがある。

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