『令嬢クリスティナ』(ミルチャ・エリアーデ 作品社)の帯に「巨匠エリアーデが描いた妖しくもエロティックな吸血鬼伝説」とあるが、明らかな吸血シーンがあるわけではない。著者がルーマニア人であることからの連想で、このような帯になったのかもしれない。この帯だったから興味惹かれたわけだが。以下は訳者あとがき、帯からの引用。
これは若くして死んで現世を離れ切れぬ女の幽霊の恋物語だ。Z村の貴族の屋敷の住人たち、モスク未亡人とその娘二人は、令嬢クリスティナの美しい絵姿を生前の寝室に飾り、さながら聖像画のように渇仰していた。令嬢は未亡人の姉で、ルーマニア全土を震撼させた1907年の大農民一揆に巻き込まれたのだ。まだはたち前だった。死骸は見つからなかった。物語の舞台はそれから30年近く経っていて、貴族屋敷を訪れた青年画家と考古学者は、令嬢クリスティナについて村では身の毛もよだつような噂がささやかれていることを知る・・・・・・・。
東欧の陰鬱な雰囲気の中、物語は淡々と狂気へ向かう。1936年の小説で、元々古色蒼然としているので、古く感じない。登場人物の言葉は嘘か本当か定かではない。美しき誘惑者は夢なのか、幽霊なのか、吸血鬼なのかも定かではない。夜、屋敷、夢、美少女、病、肖像画、フォークロア等の要素があり、最後はカタストロフィー、ただの吸血鬼もの以上の幻想小説だ。 そして、読み終わると表紙のデザインの意味が解る。