『たそがれの維納(ウィーン)』 頽廃芸術家が絵のモデルは誰かと問い詰められ、架空の女性をでっちあげるが・・・

たそがれの維納 ヴィリ・フォルスト監督 1934

『恋愛三昧』マックス・オフュルス監督 1933)は『たそがれの維納(ウィーン)』ヴィリ・フォルスト監督 1934)よりもウィーン情緒が出ていることで有名だったと植草甚一が書いていることは記事「『恋愛三昧』マックス・オフュルス監督(1933)を見たくて、まずリメイク『恋ひとすじに』(1958)を見てシュニッツレルの原作も読んで」に書いた。『恋愛三昧』は夜の街の寂しげな感じや自然の風景などが美しく、確かにその通りかもしれない。ただ、『たそがれの維納』は全然タイプが違う映画で、華麗なる社交界、頽廃芸術家の恋のいざこざと、別の意味でウィーン情緒と云える。

マックス・オフュルス監督作では『輪舞』の狂言回し、『歴史は女で作られる』のルートヴィヒ一世役のアントン・ウォルブルックがダンディな画家を演じている。『たそがれの維納』の時はまだアドルフ・ヴォールブリュックだったが、ヒトラーの台頭ともにアドルフという名前を辞めて英語名になった。気品のある風貌、紳士的でありながらなんとなく悪そうな雰囲気もあり、非常にかっこよい。こんな風になりたいものだ。

画家の愛人は画家の気を引くためにオペラの指揮者と婚約する。指揮者の兄である医学博士の妻はパーティーを抜け出し、画家のモデルになる。仮面と毛皮のマフ以外は何も身に付けていない姿で。その絵が新聞に載り、モデルは誰かと評判になる。医学博士はモデルが自分の妻だとも知らず、弟の婚約者だと思い込み、「決闘だ!」と騒ぎ立てる。事を荒立てたくない指揮者は兄をなだめて、画家にモデルは誰かを聞きに行く。問い詰められた画家は適当な名前をでっちあげるが、指揮者は名前からモデルと思われる女性を探し出す。色々あって画家はその女性に恋するが、元愛人が嫉妬に狂い・・・コメディかと思って見ていたら突然深刻な事態が起こる。

ワルツを踊る男女をカメラが横に流れるように追い、柱がサーッサーッと横切るところなど、非常に美しい。主要な二人にとっては一応ハッピーエンドかもしれないが、医学博士、指揮者とそのお相手がどう見てもうまくいきそうもない。上品で、たまに見たくなるような映画だ。

淀川名画撰集 – たそがれの維納(ウィーン) – IVC

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