大正十五年(1926)に江戸川乱歩が神戸の横溝正史を訪ね、二人で深夜の元町通を歩いたことについて、『ハイカラ神戸幻視行 紀行篇 夢の名残り』(西秋生 神戸新聞総合出版センター)に書かれている。そこで見た呉服店のショーウィンドウの中の生人形にある種の感銘を受け、横溝正史が短篇「飾り窓の中の恋人」を書くきっかけになったという。呉服店の人形に恋をし、盗み出す男の話だ。トリックは面白いが、人形ものとしてはなーんだそんなオチかという感じだった。
他に横溝正史の人形ものと云えば昭和十一年(1936)に発表された「蠟人」(ろうじん)がある。『鬼火』(桃源社 角川文庫)に収録されている。
十七歳の美少女芸者には繭の仲買いをしている旦那がいたが、競馬の騎手の美少年と出会い、恋仲になる。それを知った旦那は騎手に非道い仕打ちをし、仲を引き裂く。芸者は病で失明し、納戸の中で騎手そっくりの蝋人形を抱きしめ、語りかけ、不思議なことに騎手そっくりの子供を産む。ただ、よく読むと子供が本当に騎手に似ていたのかどうかは不明だ。単に母親が美人だから子供も玉のようにかわいかっただけという可能性もある。だが、おせっかいな第三者のせいで悲劇的な結末へ。
(谷崎潤一郎『春琴抄』+江戸川乱歩「人でなしの恋」)÷(-2)といった内容だ。芸者が愛していたのは騎手の幻だったのではないだろうか、いやひょっとすると・・・という、『未来のイヴ』(ヴィリエ・ド・リラダン)にも通づるような問題が出てくる。
美やロマンティシズムはあるものの、男なら生理的に嫌悪感を催す描写があり、最後は凄惨すぎて、あまり読みたくない。詳しくは書かないが、ヒントは男のマネキンの服を脱がせたらどうなっているか・・・・・・キョエー、おっかないですねー、エログロですねー。