「悪霊物語」(昭和二十九年 1954)は江戸川乱歩、角田喜久雄、山田風太郎が書き継いだリレー小説だ。本編を読む前に、この作品について書いた乱歩の文章を読み、これは是非読まねばと思った。
わたしはこの連作の第一回をホフマンの『砂男』やワイルドの『ドリアン・グレイ』を連想しながら書いた。これをすなおに引き伸ばせば、幻想怪奇の物語となる。老人形師は人形に生命を吹き込む錬金術師であろう。また、モデル女を誘拐し監禁する色魔であろう。小説家はこの老魔術師の心を知る人である。知りながら、その妖術のとりことなるのである。
第一回は人形へのこだわりがあり、不気味さもあり、意外性のある終わり方をして実に面白い。二回目以降も下手ではないのかもしれないが、やはり別の人なので、幻妖さのないつまらないものになっている。乱歩の考えた結末の小説がこの世に存在しないのは残念なことだ。
その揚句は美しき死であろうか。小説家はこの世のほかの妖美に酔いしれて、女と折り重なって息絶えるのであろう。そして、美女の屍体は人肉ではなく、永遠に変わることなき透き通る蝋の肌なのである。
もしこのような作品になっていたら、かなり私の好みだ。だが、考えようによっては、想像する余地が普通より多く、自分だったらこうしたいなどと考える楽しみはある。その意味ではよかったのかもしれない。