「フランケン奇談」(江戸川乱歩 キング昭和32年2月号掲載 角川ホラー文庫『火星の運河』収録)はフランケンシュタインがメインというわけではなく、人形怪談についてのエッセイだ。
吉原の小式部太夫という遊女が同時に三人の武家に深く思われ、三人に義理立てするために人形師にたのんで自分の姿を三体きざませ、武家たちに贈った。だが不思議なことに人形のモデルになっている間に小式部はだんだん体が衰え、最後の人形が出来上がると同時に息を引き取ったという。この、ポーの「楕円形の肖像」とそっくりの話を乱歩は新聞で読んだと書いているが、調べてみると「偶人物語」(田中貢太郎)という似た話があった。
近代になると人形怪談に「人造人間」のアイデアが付け加わってきて、そのふたつの型がロボットとフランケンシュタインの怪物であり、フランケンシュタイン・テーマの一番古い傑作がホフマンの「砂男」だと乱歩は書いている。「自動蝋人形オリンピア嬢は、人形なるがゆえに、人間の美人よりも美しい。ナタニエル青年は生きた人間の娘たちを捨ておいて、この人形に夢中になる。人形の方が人間よりも、もっとほんとうに生きていたからである」と、かなり主観的な見方だが、それもよい。
それから、多くの西洋人形怪談を読んだ乱歩の最も深く印象に残っているもの三つのあらすじが書かれている。そこは乱歩、ただのあらすじではなく短篇小説のようだ。だが、作品名や著者名は書かれていないので、まとめておく。昔からおかしな話が色々あるものだ。
「ダンシング・パートナー」“The Dancing Partner” (1893) ジェローム・K・ジェローム
男なんて退屈、電気仕掛けの人形の方がましだという女が、機械仕掛け玩具作りの老人作ったダンサー人形と踊るが、人形は女が失神しても血を流しても踊りをやめない。
「モクスンの傑作」“Moxon’s Master”(1893) アンブローズ・ビアス
思考する機械人形を作った発明家とその機械がチェスをし、負けた機械人形が発明家を絞め殺す。
「恋がたき」“The Rival Dummy”(1928) ベン・ヘクト
人形と本気で冗談を云ったり喧嘩したりする腹話術師が女に恋するが、腹話術師は人形に嫉妬して、斧で人形をぶち壊す。
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