二年以上前に『図説 アール・ヌーヴォー建築』(橋本文隆 河出書房新社)の表紙でこの建物を知った。強烈なインパクトだったが、全く別世界の存在で、実物を見たいとすら思ってはいなかった。パリに行くことに決めた後で、実物を見られることに気付いた。
性的なモチーフが各所にちりばめられていて、ドアノブのトカゲは卑語でペニスを意味するそうだ。美術館の展示物ではなく、生活の一部にこのようなデザインがあり、百年以上の時間を経ている。写真を撮っているとドアの向こうにこちらへ向かってくる人影が見え、おっかないのでサーッと逃げた。もうかなり撮ったあとだったので、よかった。
帰ってから、部屋で何気なく芸術新潮1984年9月号「特集・パリ発アールヌーヴォーの旅」を開いてみたら、ラップ通りの集合住宅が載っていた。しかも中まで。さすがに中までは見られなかった。中も素晴らしい。この特集は建築についての解説はなく、パリからはじまってミラノ、ウィーン、ブダペスト、バルセロナの田原桂一の写真と、辻邦生の小説だけというものだ。