『オペラの怪人』(アーサー・ルービン監督 1943)は過去に見たときにそれほど感銘を受けず、再び見たがやはり薄っぺらかった。ヒーロー役は警官とオペラ歌手と二人に分かれ、クリスティーヌとの関係はコメディ調だ。警官とオペラ歌手は二人ともコールマン髭で胡散臭い紳士な感じがよい。クリスティーヌとエリックは父娘であることをほのめかしているものの、関係はあまり描かれていない。
エリックはクリスティーヌを陰ながら支援していたが、指の怪我のためにオペラ座をクビになり、音楽出版社に曲を売り込めば盗用され、怒りで出版社の男の首を締めたら社の女に硫酸をかけられる。ここまでやられたら狂ってしまうのも納得だ。オペラ座の地下に逃げ込んだエリックが黒い服で色々巻き起こすのは他の映像化作品と同様だ。
怪人が機敏に動くのと、仮面の下の眼が見えるところがサイレント版と異なるが、クラシカルな陰影の演出もある。『ファントム・オブ・パラダイス』(ブライアン・デ・パルマ監督 1974)は『オペラ座の怪人』のパロディだが、ガストン・ルルーの原作よりはこの映画に近い。
1943年アカデミー賞の撮影賞(カラー)と室内装飾賞(カラー)を受賞していて、オペラシーンやシャンデリアが大きめに映るカットがよい。映像と音楽が豪華な割に地味な印象だが、エリックの悲哀が出ている。思っていたよりいい映画なような気がしてきた。
《追記》
過去に見たときの記事があったので貼っておく。(2017年1月16日)
オペラの怪人 2007年 05月 06日 05時 12分
アーサー・ルービン監督『オペラの怪人』(1943年)を見た。1925年のと2004年の『オペラ座の怪人』は似ているのだが、これはストーカー度が高い少し変わった映画だった。オペラ座では実際に馬を飼っていたらしく、2004年版でも地下道を歩く馬が出てくるが、1943年版では舞台上に馬が出てきた。『ファントム・オブ・パラダイス』の曲を盗まれるエピソードはここからきているのだな。
1925年版を以前レンタル屋で借りたときは仮面舞踏会のシーンだけ画面が赤くなっていたのだが、500円DVDでは白黒のままだった。赤のイメージはミュージカル、2004年版に受け継がれている。
私はイタリアかフランスかドイツか、オペラのある国に生まれたらオペラを楽しめたのにと思っていたのだが、考えてみたら映画は字幕で観ているのだからオペラも字幕でいいじゃないかと思って、図書館で借りて少し見たことがある。偶然か意識したのか判らないが『イル・トロヴァトーレ』が『北斗の拳』に似ていたり、『ファウスト』の宝石箱の歌が『ウエストサイド物語』の”I Feel Pretty”のルーツだと気付いたり、名前は忘れたが『椿姫』に出ていた人が肥っていない美人だったり、『カルメン』の闘牛士が出番は少ないのにとてもかっこよかったり、色々面白い。