『もう森へなんか行かない』(エドゥアール・デュジャルダン 都市出版社)を再読した。この小説は一気に読みたい。私は読むのが遅い方だが、これはそれほど長くないので一気に読める。
1887年の小説で、学生が女優に恋をして、たびたび少なからぬ金を与え、一夜馬車に乗ってデートに出るが、結局なんにもならないという、どうということのない話だ。しかし、学生の内的独白がきちっとした文章ではなく、人間のとりとめのない思考に近い感じで描かれているのが面白い。
フランスにもこれほど滑稽で情なくかっこ悪い男はいたのだろう。男ならこの小説の切なさがよく解ると思う。女性が読んだらイライラするかもしれない。
妖しい魅力で男を惹きつけ、関わった男を必ず破滅させるような宿命にある女をファム・ファタールと呼ぶ。この小説の女優は学生に決定的な破滅をもたらすわけではない。金をねだったり、思わせぶりなふりをして寸止めする程度だ。多分、男は自分の意志で行動していると思っているのだが、実際は振り回されているのだ。こういうことはある。ささやかなファム・ファタールと名付けよう。
画像はアリス・ラーフリンの挿絵。