「蜜のあはれ」(室生犀星 1959)を読んだ。小説家のをぢさまと蠱惑的な金魚の少女のやりとりが中心の、会話のみの小説だ。をぢさまの妄想なのか、自分を金魚だと思っている頭のおかしい少女なのかと最初思ったが、それはどうでもよくなってくる。すべて室生犀星の妄想だろう。若い人には書けない小説だ。
途中、をぢさまと昔関係あった女の幽霊が出てきて、お互い合おうとしないのを金魚が合わせようとする。つまらない小説なら再会して色々あるのだろうが、そうではない余韻のある終わり方がいい。
後記によれば、室生犀星は『赤い風船』(アルベール・ラモリス監督 1956)に取り付かれ、こういう美しい小事件を小説に書けないものかと思い、意図して書いたわけではないが「蜜のあはれ」が偶然自分の『赤い風船』になったらしい。