東西ドッペルゲンガー譚

『20世紀日本怪異文学誌 ―ドッペルゲンガー文学考―』(山下武 実業之日本社)

ドッペルゲンガーのテーマに興味があり、その手の本を読んでいこうと思っている。何故かよく分からないが、昔から興味を惹かれていた。双子を見たときの不思議な感じが関係しているかもしれない。見えないはずのものが見えるという点では幽霊にも似ている。

以下のリストのものはほぼ読み、一部これから読もうと思ってるものもある。まだまだあるが主なところだけ。ドッペルゲンガーは自分がもう一人の自分を見る、同一人物が二か所以上に現れることを指すが、広い意味で二重人格、多重人格も含めている。

「大晦日の夜の冒険」ホフマン(1815)
「ウィリアム・ウィルスン」ポオ(1839)
『二重人格』ドストエフスキー(1846)
「影法師」アンデルセン(1847)
『ジキル博士とハイド氏』スティーヴンソン(1886)
『ドリアン・グレイの肖像』ワイルド(1890)
『プラークの大学生』エーヴェルス(1930)

渡辺温「影 Ein Märchen」(1925)で、日本にもドッペルゲンガーものがあることを知った。『カリガリ博士』など映画の影響を受け、後に『ドリアン・グレイの肖像』の翻案もする渡辺温の作家デビューのきっかけとなった、芸術と恋と殺人の短い物語だ。幻想的でありながらミステリ的な結末がある。

「影 Ein Märchen」を読んで新鮮に感じたものだが、私が知らなかっただけで、このテーマは随分流行したようだ。『20世紀日本怪異文学誌 ―ドッペルゲンガー文学考―』山下武 実業之日本社)に森鴎外谷崎潤一郎芥川龍之介佐藤春夫泉鏡花夢野久作澁澤龍彦三島由紀夫江戸川乱歩山田風太郎など等かなり広範囲に詳しく書いてある。渡辺温の兄、渡辺啓介については二つの章で取り上げられている。この作家が特にドッペルゲンガーものを好むからだそうだ。どちらかの影響があったのだろうか、兄弟だから似たような嗜好なのだろうか。山下武は「若くして死んだ温の代役として探偵小説界に登場した経緯が、常に彼の意識の底にあるからではないだろうか」と書いている。

『20世紀日本怪異文学誌 ―ドッペルゲンガー文学考―』のあとがきによると外国篇を書くつもりもあったようだが、実現しなかったのは残念だ。

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