『地獄の天使』(1930) ハワード・ヒューズが巨額を注ぎ込んだ飛行機映画

地獄の天使 Hell's Angels (1930)

ハワード・ヒューズの伝記映画『アビエイター』マーティン・スコセッシ監督 2004)はそれほど面白い映画でもないが、私は好きだ。映像、音楽、ファッションに時代の雰囲気が出ていて、ハワード・ヒューズが情熱を持って突っ走るところ、自分に正直なところ、権力に屈しないところがかっこいい。

『アビエイター』『地獄の天使』ハワード・ヒューズ監督 1930)撮影時が描かれている。137名のパイロット、87機の戦闘機を飛ばして撮った空中戦の試写を見たハワード・ヒューズは、背景に何もないところをゆっくり飛んでいたら模型と同じでスピード感がないと云って、気象学者を呼んで雲を探させる。思うように雲が出てくれるわけはなく、よい雲が出るまで待つ。このエピソードを知って『地獄の天使』を見ると、確かに背景に雲が写っていて、かなりの数の飛行機が飛んでいる映像は今見ても迫力がある。

当時の映画としては長い二時間を越える上映時間で2,000人のエキストラ、サイレントで撮影したがトーキーで撮り直し、一部カラー映像もあり、かなり金のかかった映画であることが分かる。だが、これはただの金持ちの道楽なのだろうか。

真面目な兄ロイとおちゃらけた弟モンテのイギリス人兄弟とドイツ人のカールは友人だったが、戦争が始まり、敵味方に分かれて戦うことになる。大抵の戦争映画のように、見れば戦争は厭なものだなという気分になるが、強烈なのはモンテの叫びだ。当番で夜間巡回飛行がある。その当番に指名されたモンテは体調不良を理由に拒否しようとするが、同僚から臆病者と罵られ、感情を爆発させる。

全部きちんとは訳さないが、愛国心や義務なんかただの言葉にすぎない、政治家や暴利をむさぼる奴らがお前らを騙すために作り出した言葉だ、政治家こそが人殺しだ、汚れて腐った政治家の戦争だ、俺には自分の考えを云う勇気がある、お前らは臆病と呼ばれることを怖れて口をつぐんでいるじゃないか、などと云っている。

That’s a lie! I’m not yellow.
I can see things as they are, that’s all.
I’m sick of this rotten business.
You fools. Why do you
let them kill you like this?
What are you fighting for?
Patriotism. Duty. Are you mad?
Can’t you see they’re just words? Words coined by politicians
and profiteers to trick you into fighting for them.
What’s a word compared with life…
the only life you’ve got.
I’ll give ‘em a word. Murder! That’s what
this dirty rotten politician’s war is.
Murder! You know it as well as I do.
Yellow, am I?
You’re the ones that are yellow.
I’ve got guts to say what I think.
You’re afraid to say it. So afraid to be
called yellow, you’d rather be killed first.
You fools! You poor, stupid fools.

引用元 Hell’s Angels (1930) Movie Script

「死んで英雄に」など、人々がそう思ってくれた方が都合がいい奴らが作り出した幻想で、どこの国の人間も生きたいのが当たり前だ。ここまではっきり政治家を批判していることに驚いた。云いたいことも云えなくなったら終わりだ。このシーンはトーキーでなければ、ここまで印象には残らなかっただろう。

ハワード・ヒューズ『つばさ』(1927)をライバル視して『地獄の天使』を作ったという。『つばさ』も戦争の悲惨さを描いてはいるものの、どこか軽めの印象がある。『地獄の天使』は救いのない結末で、そんな甘っちょろいものじゃないよと云っているようだ。

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