『聖書』、『神曲』、『失楽園』等の挿絵で有名になっていた19世紀フランスの画家・版画家ギュスーヴ・ドレは、挿絵画家と呼ばれることに不満を感じていた。そこでイギリスのジャーナリスト・劇作家ブランチャード・ジェロルドからある本のアイデアを聞き、乗り気になった。ロンドン各地を訪ねてまわり、ジェロルドが文、ドレが絵を描くというものだ。それが『ロンドン巡礼』(”London: A Pilgrimage” 1872)だ。上流階級の舞踏会や劇場、労働者たち、街や駅の雑踏、監獄、貧民窟、阿片窟まで描かれている。
過去の記事「「パンの大神」 アーサー・マッケン 男を破滅させる謎の女の正体は」に「19世紀末ロンドンの街の暗部、二面性、本や骨董談義、科学、医学、犯罪の当時の雰囲気が「パンの大神」にもある」と書いたとき、スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏』が念頭にあったのだが、そのときはマッケンとスティーヴンソンの関連性を知らなかった。マッケンの『怪奇クラブ』はスティーヴンソンの『新アラビア夜話』の影響を受けていたのだ。また、ロンドンの暗部、犯罪ということならアーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ、私が最近凝っているオスカー・ワイルドにもつながる。ドイルとワイルドも面識があった。
『ロンドン巡礼』は世紀末よりは少し前だが、ほぼ同時代のロンドンの雰囲気を感じることができる。こちらのサイトに高画質で大きな画が27点載っている。だが、検索してみると、これがすべてではないようだ。
London illustrations by Gustave Doré