当ブログは腕時計専門というわけではない。だが、どうもここのところあまり本を読んでいなかった。段々頭が悪くなってきている気がする。齢のせいかスマホのせいか放射能汚染のせいか判らないが、おそらく全部だろう。このままではいかんと思い、連休はほぼ読書していた。新しく買わなくても読む本はすでにたくさんある。今回選んだのは『妖花 ユウゼニカ物語』(橘外男 中公文庫)だ。これは面白い! 饒舌体に乗せられて夢中で読んだ。
終戦の前年、食糧難と爆撃を逃れ満州国新京(長春)に渡り、映画の原作を書いている語り手の「私」はアルメニア人実業家とその娘姉妹と親しくなる。姉のメルセーニカは大人しくて優しく、妹のユウゼニカは凛として気が強い。一家は横暴な白系ロシア人組合長、国士気取りの日本人詐欺師に辛酸を舐めさせられる。その後、その二人は次々と惨殺され、父と姉はもしかして犯人はユウゼニカなのではないかと疑うが・・・・・・とここまで書いてしまっていいのかという感じだが、まあいいだろう、意外な犯人というトリックは全然ない。
どうなってしまうんだろうと読み進めると、最後の数ページには驚かされ、はっきりしない余韻のある終わり方だ。これは前篇であり、後篇を加筆して完結するはずだったが実現しなかった。その分、色々と想像できる。昭和二十四(1949)年に週刊朝日で連載され、翌年に出版された。
ストーリーそのものだけではなく、とぼけた語りの面白さがあり、エロ・グロ、戦中の満州の風俗、日本人・戦争のいやな感じが出ていて興味深い。
細部でおっ!と思ったのは、ユウゼニカの部屋は書物が多数あり、「わたし、レニエの英訳を手に入れて読んでますけれどとても面白いんですのよ」と云うところ。
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