『人造人間小説傑作選』(十三舎)は、その名に恥じぬ傑作揃いだ。大正、昭和の時代や人造人間に興味を持っていたが、読んだことのない小説ばかりだった。雑誌や本のロボット小説のリストから抜け落ちているのではないだろうか。当時の世相や科学観がうかがえ、そして全部面白い。狂った博士、美人の助手、美少女電気人間等など、素晴らしすぎる。
《収録作品》
「人間製造」(1924)国枝史郎
白人医師と日本人美女の助手が造り上げた人工の人間。巷を騒がす連続心臓抜き事件との関係は?
「人造人間」(1928)平林初之輔
村木博士は自身の精虫と培養液で人造胎児を造る実験をする。博士は妻も子もありながら助手と不倫している。表の顔の紳士振りと裏の顔の詐欺師振りがよい。
「ロボットとベッドの重量」(1931)直木三十五
病に蝕まれたロボット部主任技師は夫人に、自分が死んだらこのロボットを俺だと思って愛してくれと云い遺して死ぬ。ロボットには生理学的研究も加えてあり外見は人間と変わらず、性的能力まであるのだ。人間の男と関係を持とうとした夫人は・・・
「脳波操縦士」(1938) 蘭郁二郎
語り手はひょんなことから知り合った奇人が造った美少女電気人間ルミに恋する。ルミは奇人の脳波で操られているはずなのに、語り手に恋する。ルミは意志を持ち始めたのだろうか? 『未来のイヴ』(ヴィリエ・ド・リラダン)を思わせる人造人間の仕組みの細かい描写、ホフマンを思わせる幕切れだがストーリーが似ているわけではなく、ラジオの電波など新しい要素があり、空想科学らしい恋愛もので気に入った。
「人造人間殺害事件」(1931)海野十三
人造人間の研究で知られた竹田博士が殺された。部屋には拳に血が付いた人造人間が。怪しいのは西洋人医師と親しくしていたウララ夫人か? ウララ夫人に横恋慕していた博士の元助手か?
「人造人間」(1928)高田義一郎
『試験管内に於ける人間の培養完成』に有頂天の○○帝国大学医学部○○教授が語る未来予想。生殖、恋愛、法律、経済、これから起こりそうな大変なことなどについて熱弁をふるうが・・・