『上海特急』(ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督 1932)を見て私の中で上海ブームが起こり、『上海バンスキング』(深作欣二監督 1984)、『上海ブルース』(ツイ・ハーク監督 1984)、『上海ルージュ』(張芸謀(チャン・イーモウ)監督 1995)、『ラスト、コーション』(アン・リー監督 2007)、『シャンハイ』(ミカエル・ハフストローム監督 2010)とまとめて見た。どれもよかった。中でも特に幻想の魔都・上海の雰囲気が出ているのが『シャンハイ』だ。さすがハリウッドの資金力。
ネットにある感想を読んでみると『シャンハイ』の評価は低いようだ。歴史物だと思って見るからそうなるのだ。確かに中途半端な映画ではある。だが、これは現代の西洋人が作った荒唐無稽なおとぎばなしだと思えば腹は立たない。タイトルが『シャンハイ』というくらいだから、都市が主役なのだ。頽廃、陰謀、犯罪、恋、冒険などが渦巻く混沌とした都市の雰囲気、夜のネオンや薄汚れた壁、駅の雑踏、ホテルの窓から見える大世界等などが暗く美しい映像で描かれている。
不満を挙げればナイトクラブで「シング・シング・シング」が流れているのにダンサーが扇を持ってゆらゆら揺れているだけのところだ。ここは群舞を見せて欲しかった。惜しい。監督がアメリカ人かフランス人ならレビューシーンを入れるはずだ。色っぽい人妻で革命家役のコン・リーは『上海ルージュ』で踊っていたではないか。このユルさがいい。
あとはアメリカ人間諜役のジョン・キューザックと中国マフィアのボス役のチョウ・ユンファがぽっちゃりした童顔なので、もっとシャープな人がやれば映画の印象もシャープになったはずだ。
私は詳しくないので知らないが、当時はまだなかった戦艦大和が出ているとか、日本人が悪役だとぷりぷり怒っている人たちがいる。『上海特急』も、上海特急は実在しなかったし、上海で上映されたときには中国革命軍の描き方が屈辱的だと非難囂々だったというから、いつの世も変わらない。私は歴史物が見たかったわけではなく、『上海特急』のキッチュな架空の上海からたどって『シャンハイ』に行き着いたので、とても気に入った。