ポオはオランウータンを知らずに『モルグ街の殺人』(1841)を書いたのではないかという、荒俣宏の説について過去の記事 「『キング・コング』に影響を与えた猿たち」に書いた。そのときオランウータンの挿絵を探していて、下の画像を見つけた。これはもしかして『モルグ街の殺人』に影響を与えたのでは?と思いたいところだが、1869年出版の本の口絵なので、モルグ街よりも後だ。
『世界動物発見史』(ヘルベルト・ヴェント 平凡社)によると、ダーウィンの仲間、アルフレッド・ラッセル・ウォレス著『マレー群島』は、八年にわたる旅行の成果で、ゴクラクチョウの正体をあばき、動物地理学の基礎を築き、進化論の発見に力を貸した。ウォレスはオランウータンを生息地で観察し、知能を正確に調べた最初の学者で、オランウータンの赤ん坊を育てた。オランウータンと人間が戦っている絵以上に、オランウータンが人間のように振る舞い、人間の病気であるマラリア熱で死んだことが読者にセンセーションを巻き起こしたらしい。
『モルグ街の殺人』とは全然関係ないことが分かったが、逆に云えば、『モルグ街の殺人』が書かれた当時はオランウータンの詳しい生態までは知られていなかったことが分かる。