吸血鬼伝説の残るトランシルヴァニアのカルパチア山中の古城が舞台の『カルパチアの城』(ジュール・ヴェルヌ 1892)の三年後に『吸血鬼ドラキュラ』(ブラム・ストーカー)が出版された。だが、これは偶然で、ストーカーがヴェルヌを読んでいたとか面識があったということはないらしい。
また、『カルパチアの城』と『オペラ座の怪人』(ガストン・ルルー)はストーリーは似ていないが、怪人物、歌姫、青年貴族という人物の相関関係がよく似ている。これも偶然だろうか。
以下ネタバレ。歌姫ラ・スティラが出演する公演にはいつもゴルツ男爵が現れる。若い伯爵テレクとラ・スティラは婚約するが、ラ・スティラは引退の公演のとき舞台の上で死んでしまう。ゴルツ男爵はマッド・サイエンティストにラ・スティラの映像と音声を再生する機械を発明させ、城に引きこもる。本当は前後にもっと色々あるのだが、そこは結構退屈だ。この設定、エピソードだけでかなり気に入っている。また、これがホフマンやヴィリエ・ド・リラダンの影響を受けているというところが素晴らしい。
作中に出てくるオペラ、マエストロ・アルコナッティ作『オルランドー』を聴いてみたいと探したことがあったものだが、『レンヌ=ル=シャトーの謎と秘密結社 ジュール・ヴェルヌの暗号』(ミシェル・ラミ 工作舎)によれば、実在しない。アルコナッティは、ダ・ヴィンチの手稿のいくつかを所有していた伯爵の名前であり、オルランドは、アリオストの『狂乱のオルランド』を思わせるとのことだ。
吸血鬼伝説からの連想でゴルツ男爵が吸血鬼だとか取り殺したという解釈があるが、私はそうは思わない。ラ・スティラが恐怖を感じていたにせよ、ゴルツ男爵は直接何かしたわけではないし、本当にラ・スティラの歌を愛していたと思う。そうでなければ、わざわざ音声や映像を再現する必要はない。
『カルパテ城の謎』のタイトルで映画化されている。チェコのオルドリッチ・リプスキーが監督で、特殊効果でヤン・シュヴァンクマイエルが参加している。コメディになっていて、これはこれで大好きだが、真面目に作っても面白いと思う。