『つばさ』(1927)は第一次大戦時の飛行機乗りの恋と友情を描いた映画で、監督は実際に飛行機乗りだった。数機ならんだ離陸シーン、飛んでいる飛行機の陰が地上に映ったり、雲の上を飛ぶ飛行機をさらに上から撮ったり、空中戦での墜落の映像など、今見ても迫力がある。飛行機が家に激突して、いくらなんでもこれは模型だろうと思っていたら、画面に人が入ってきて驚いた。
主人公ジャックは目のぱっちりした坊っちゃん顔、恋のライバルであるが友情で結ばれるデイヴィッドは目が細めの美男という、『スター・ウォーズ』(1977)のマーク・ハミルとハリソン・フォードを思わせる顔立ちだ。『スター・ウォーズ』で見られる戦闘機で飛んでいるパイロットの正面からの映像は、『つばさ』にもすでにある。スラっとした美人は端役で出てくるが、主人公に思いを寄せるクララ・ボウは愛嬌のあるタイプで、同年に『あれ』(イット)にも出演している。まだ無名だったゲイリー・クーパーが出ていたのは一場面だけだが、印象的な役だった。
ある戦闘でデイヴィッドが撃墜され、ジャックはデイヴィッドが死んだと思い、激しく戦う。実はデイヴィッドは生きていて、敵機を盗んで帰ろうとするが、無事にたどり着くことはできるのか?
死の恐怖から逃れるために、兵士たちがパリで女と酒を飲むシーンで、主人公は酔っ払ってシャボン玉の幻を見る。これが映画のルーツは奇術だっということを思い出させる非常に面白い映像だ。グラスや楽器や女からシャボン玉がぽわぽわ浮かびあがる。見たときはただ面白かったが、シャボン玉は壊れやすいもの、はかない生命、死の象徴でもある。
戦争のリアルな映像で悲惨さを描いているもののどこか軽めの印象があり、この後また戦争が起こることを知っていると複雑だ。資料的な価値しかないかというとそうではなく、人間関係のサスペンスやユーモラスなシーンもあり、娯楽映画となっている。